「トランスフォーマティブ・コンピテンシー」を育む
あなたはどのような未来を創りたいですか? どのような社会課題を解決したいですか?
私はこれまで事業会社、研究機関、NPOなどで、アメリカやイギリス、国内の社会企業家や非営利組織の方たちと環境問題を中心に社会課題の解決に取り組んできました。2010年頃からは農山漁村や伝統的な農林漁業の素晴らしさを知り、近年は農林漁業者や自治体の方たちと主に「世界農業遺産」(FAO)認定地域の活性化および研究・教育を行ってきました。
2024年3月まで3年間、同志社大学で専任教員を務めました。総合政策科学研究科ソーシャル・イノベーションコースでは、社会人大学院生の皆さんと農山村の活性化、竹林SDGs、農山村での大学生の新しい学びなどをテーマに実践と研究に取り組みました。政策学部では「SDGs時代のサステナブルな地域づくり」という授業を通じ、都市部・農山漁村部でフィールドワークを行うとともに、課題解決策の企画づくりを行いました。そして、4月からは地域力創造アドバイザー(総務省)として、和歌山県みなべ町に通っています。国が2018年から実施している「SDGs未来都市」による地方創生を支援しています。ここでは、学習する組織を創ろうと「みなべ梅ラーニングコモンズ」と称する学びの場を設定し、町民(地元の高校生も)、役場職員、町外の応援団、専門家が共に町の課題解決策を立案実践する「地域共創プログラム」を実施しています。
これらのプロジェクトのベースにしているのは「OECDラーニング・コンパス2030」の考え方です。2030 年の教育に求められている未来像を描いた、進化し続ける学習の枠組みである「OECD ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030」は、「OECD Future of Education and Skills 2030 プロジェクト」により2019年に開発されたものです(図)。学びの主体者をステューデント・エージェンシーと呼び、共同学習者として共同エージェンシーを配置しています。2030年のゴールはウェルビーイング(Well-Being)です。仕事、収入、住宅のような経済的要因に加え、ワーク・ライフ・バランスや教育、安全、生活の満足度、健康、市民活動、環境やコミュニティのような生活の質(Quality of life)に影響を与える要因も含まれています。学習のプロセスで最も重要なのは「トランスフォーマティブ・コンピテンシー」と呼ばれている能力です。それは、より良い未来の創造に向けた変革を起こす行動特性であり、新たな価値を創造する力、対立やジレンマに対処する力、責任ある行動をする力を育む能力です。
筆者が担当する演習等や授業においても、この「OECD ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030」をベースに、ロジックモデルやプロジェクト・プログラムマネジメントの手法などを活用し、社会課題の解決を担う人材に欠かせないトランスフォーマティブ・コンピテンシーを育む教育プログラムの立案を、皆さんと共に様々な現場(フィールド)で試行しつつ開発・実践していきたいと考えています。
「You can make a difference!世の中を変えるのは、私たち一人ひとり」。この言葉はイギリスの自然化粧品ブランドTHE BODY SHOPを創業した社会起業家アニータ・ロディックの言葉で、私の座右の銘でもあります。教育とDXを活かし、持続可能な社会の実現をイノベーションしてまいりましょう。